遊牧写民

心に残った日常を一枚の写真に

不要な一滴 『獣の奏者』

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獣の奏者上橋菜穂子

 

年末にハマった本がこれ。

ジャンルでいうとファンタジーになるのだろうか。

もう大分前の作品なので、今更感があるのだが

これまで出会えずにいた。

 

作中には

実在しない国や生き物たちが登場してくるのだが、

主人公の生き様を通して

人間とは、国家とは、戦争とは、といったところを

問いかけてくる(と思う)。

 

そして、様々な謎が少しずつ明かされ、

最大の謎がクライマックスで明かされるという点や、

主人公がこの先どうなるのか気になって気になって仕方なく、

中断することなく一気に読み進めてしまった。

 

いつも思うのだが、

小説家って凄いなあと思う。

全体の構成を考え、伏線を用意し、登場人物に性格を与え、

一つの空想世界の構築をゼロから行うのだから。

特にお気に入りの作品に出会えたときは

その感を強くする。

 

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この作品を読んでいて、

物語の本筋に関係の無い無駄な描写や説明が無くて、

非常に読みやすいなあ、という事を思った。

物語「そのもの」に集中できる。

 

外伝のあとがきで、作者の上橋さんが

「作品に不要な一滴は要らない」と書いている。

もっと登場人物個々のエピソード等を加える事はできるのだが、

作品の美しさを保つために不要な一滴は要らない、

それらを判断して書いている、とのこと。

 

これを読んで、

自分が感じていることはこれに関係するのかな、と思った。

 

と言うのは、

いつも色々な作品を読んでいて、

「この説明いるかなあ?」

と思うところがあって、

そういう所にさしかかると物語に集中できない自分がいて、

煩わしさを感じてしまうことがあった。

そういった所は、何となく饒舌さも感じさせてしまう事もあったりして

以前から無意識に自分の中で引っかかっていた。

(単に自分の読む力が弱いだけかもしれないけど・・・。)

 

ひょっとしたら作品によっては、

元が連載物だった場合に、

字数のことや連載期間のことや

諸々の事情で描写や説明を加えざるを得なくて、

そういった部分ができてしまうのかもしれない。

 

しかし、

獣の奏者』はそういったところを全然感じさせなかったので、

そういう意味でも、凄い作品だと思う。

上橋さんの「不要な一滴」という話が

自分が感じていた事にシンクロして、

妙に納得した次第。